日々ぴこぴこ

TESとかFalloutとか、思ったことを淡々と。

物流の最前線から。

リアルの仕事は物流系です。結構多くの物品の流れを管理したり、直接確認したりします。

そういう仕事柄、最近のコロナ騒動は大変迷惑です。毎日大残業。

 

そもそも、マスクにしてもトイレットペーパーにしても、なぜ品薄なのか(もちろんデマなどが原因にあるとしても)を、物流の現場の人間なら、それこそ仕分けやドライバーでもわかるのに、一般の方々の分かりにくいこと。最前線で物流に関わっていると、こういう騒動のときはクレームと依頼のオンパレードで、大変になる一方です。儲からないのにね。

 

トイレットペーパー騒動の原因は、どこからともなく湧いて出てきた「トイレットペーパーは中国製」という話でした。まあ、わからんでもないよね。298円とか398円で売ってる=安い=中国製だ、という考えでしょうけど。

でも、トイレットペーパーのような大きくて単価の安いものを、中国で作ったら逆に赤字です。船にしても飛行機にしても。たとえばコンテナに、トイレットペーパー何個入ると思います?知れてるでしょ?でかいもん。で、単価は298円とかっすよ?粗利が半分として、製造と輸送コストが150円以下で済むわけないじゃん。輸送の現場が赤字で倒産しますよ。ああいう、でかくてもうけの少ない商品は、国産に限るんです。

 

トイレットペーパーが売り場にない=品薄じゃないか!

これもね、ちょっと考えてみてよ。

原因は二つあります。

一つは輸送コストが最近上昇傾向にある。

もう一つはトラックドライバーが極端に減少している。

ドラッグストアにしてもコンビニにしても、いわゆる「ロット」単位で仕入れることは少ないです。もちろん、ドラッグストアが特売するときに、トイレットペーパーにせよティッシュにせよ、ドライバーがたまげるほどの量を運ぶことはあります。でも、それは大変稀です。

ドラッグストアは現在、日本中に無数にあります。配送トラックはサイズも台数も限られています(店によっては3トンのショートサイズですら入らない駐車場だってあるから)。だから、ルート配送がもっぱらになります。トイレットペーパーは日用品とか、消耗品という部類です。ティッシュにせよ、マスクにせよ、衛生消耗品でしょ?だから、同じトラックに積みます。ただ、これら「でかくて儲けが少ない」商品だけ満載しても、輸送コストばっかりかかって儲かりません。だから、「小さくて儲けが大きい」商品と混載するんです。シャンプーとか、整髪料とか。小さくて単価大きいでしょ?ああいうのと混載するわけです。

混載することで、全体としての輸送商品代金が上がりますね?すると、そこからの粗利も上昇しますよね?粗利が増えるということは、配送業者への輸送コストに割り当てられる分母も増えるということです。

仮に、4トンロングの、荷台がホロのようなもので出来てるトラックに、トイレットペーパーを満載しましょう。どれくらい積めると思います?知れてますよ?頑張って200袋積んだとしますね。200×298円だから59,600円。たった60,000円にも満たない。

売り上げが6万円ということは、小売り現場の利益はせいぜい1万円です。そこから小売店の経費、本部経費、そして配送会社への費用を差し引いていくわけです。ドライバーの日当は、どうですか、500円くらいですかね?

ただでさえ、ドライバー不足の時代でもあり、物流コストが上昇している時代なのに、500円でトイレットペーパー満載のトラックを出す会社が、どこにあります?

「トイレットペーパーだけの特車出せばいいじゃん!」

なんて気軽に言わないで。どんだけ赤字垂れ流すと思うのよ。そんな儲からない、採算度外視な輸送を、今時どんな会社が請け負うと思うのですか。

 

結局、トイレットペーパーという商材に限ってみれば、ほかの商品との混載でないとトラックは出せない商材であること、また、現在の品薄がデマによって惹起された事案であること、近い将来収束するであろう一過性の事案であることを鑑みれば、今のところトイレットペーパーを大量に仕入れてメリットがあるのは、イオンさんくらいじゃないですかね。ほら、Twitterで話題になったでしょ?「ジーク、イオン!」て。あのトイレットペーパーの仕入れ面を物流の現場から見れば、どう見ても大赤字です。でも、その宣伝効果たるや、凄まじい規模です。集客にもなるし、イオンブランドの「底力」を見せつけることもできたし、ブランドイメージも良くなりましたから、あれはいわば損を引いて得を取る、商売の常道ですね。

それを、中小の小売店に求めるのは酷な事です。無理です。山のようにトイレットペーパーを積んで売り切っても、残るのは山のような赤字だけですから。ドライバーは喜びますけどね。積めても知れてる量だし、軽いし、楽だし。荷崩れしないだろうし、してもトイレットペーパーですからね。汚破損もないし。給料もちゃんと出るし。気楽な配送ですよ。でも、配送会社や小売店にしてみれば血の涙を流せるほどの大惨事しか待っていないんです。

 

転売が悪いとは言いません。

結局、商売というのは転売ですから。商機をつかんだなあ、と感心すらします。

でも、結局そういう小さな商人が増えれば増えるほど、ドライバーは足りなくなるんです。中小小売店舗さんに安定的な供給を行わなければならない、物流会社の一社員としては、「もう、黙っとれ!」と言いたくなるほど邪魔なんです。このデマ騒動のせいで、どれだけの商材の配送が飛んだか。

そんなことを思いながら、とりあえず病気が収束して、我々物流業界も毎日安定的で円滑な配送業務の日々が戻ってくることを切に願う毎日です。

 

9年前の3月11日、僕は同じ仕事をしていました。たまたまトラックに乗って乗務しなければならなくなり、その分昼は家で仮眠をとっていました。

飼っている猫が騒ぎ出し、なんだと思ったら地震でした。近畿の僕の家も、ずいぶん揺れました。

テレビでは、信じられないほどの悲惨な情報が放送されていました。

後ろ髪引かれる思いで出勤し、ラジオを付けてみたら、軒並み報道特別番組で。

それも、日ごろのニュースとは桁違いの悲惨な情報ばかりで。

深夜、たぶん4時くらいまで仕事だったんですが、ずっとラジオを聞いていました。お客さんや集配センターも、仕事そっちのけでラジオやテレビを付けていたと思います。

それから、深夜の街が暗くなりました。節電が叫ばれ、ネオンが落ち、過大な発注は自粛されました。

ただ、それまで「仕事だから」と割り切ってやっていたこの仕事に、変な感じですが、誇りというか、意味を見いだせたのも、あの震災以後なんですね。

同僚の何人かは関東への応援にも行きました。関ケ原から東は大混乱で、応援の物流社員はずいぶんこき使われたと、ヘトヘトになって帰ってきましたが、とても充足感はあったと言っていました。僕も、遠い関西の現場だけれど、トラックを使って、物資をいろんな店、会社、人に届けることの意味を初めて思い知った事件でもありました。

3月11日になると、あの震災の夜の、聴くのもつらくなるラジオを思い出す。

今も、必要としている人がいるから運んでいる、持って行っているのには変わらないのに、なんだか、こう、デマのせいで苦労すると、なんだかなあ、と思いますね。

明日も頑張りましょう。