ストーリータイム・サイモンだよ。
今日は新しいお話を持ってきたんだよ。
フィドラーズ・グリーン・トレーラー・エステートという、北西部のトレーラーハウススポットでのお話だよ。
まず、Fiddler's Green。これは船乗りの楽園、という意味で、古くから英語圏で使われる用語。Fiddlerというのはバイオリンらしくて、鳴りやまない音曲、酒、女という意味合いらしい。
で、そのトレーラー・エステートということは、要するに、退役兵たちの行きつく果てということになる。
ここにもある通り、国の退役兵予算の不都合から、身寄りのない兵士たちが寄せ集められた寄宿舎的な場所だったらしい。日本でもアメリカでも、トレーラーハウスということはそういうことだよね。
戦争というのは派手でかっこよく映画などで描かれるけれど、フォールアウトの世界ほど終末的な戦争となると、当然ながら退役兵への補助やサポートはほとんど期待できない。退役できたらありがとう、という世界だろうし、主人公のネイトも同様、無事帰還できたのだからよかったじゃないか、という感じだろう。
傷病兵になると、その余生は厳しいものになる。過去の第一次、第二次世界大戦では、傷痍兵は道端で物乞いになる人も少なくなかった。国家のために手足を失ってなお、国からの厚い保護は受けられないというのは、あまりに残酷だ。
フォールアウトの世界では、トレーラーハウスに寄せ集められ(もしかしたらスシヅメにされ)、管理された。よく探索したらわかる通り、シェルターは一か所しかない。核戦争間近の状況で、シェルターが一か所というのも、なんとも。
さて、ここで見つかるのが三つのホロテープからなる、「ストーリータイム・サイモン」。「新しいリスの話」。
主人公はオークに住む、茶色いリスの集団の、若いリスであるリッキー。
リッキーは、ほかの樹などを拠点としている他のリス集団は嘘つきだから信じてはいけないよ、という年長者リスの言う事に反発する。
そんなある日、赤いリスが助けを求めてくる。排除しようとする年長者リスたちを説得して匿うリッキーに、年長者リスも心を許し、赤いリスをオークに迎え入れる、その晩に事件はおきる…というお話。
言うまでもなく、赤いリスは実在しない。赤いというのは紅い、つまり共産党を意味する。ただ、このゲームの世界で「共産党=中国人」となっているけれど、中国人ということじゃない。多分、同じアメリカ人の共産党員ということ。なぜかというと、最後のほうで「猫」が登場する。この猫が中国人。
イギリス系アメリカ人にとって「オーク」は非常に象徴的な存在で、イギリスでは国樹とされているほど。オークにいる茶色いリスというのは、民主主義的な、13独立州出身の「正統な」アメリカ人のこと。
共産党員だろうと民主主義者だろうと、同じアメリカ人同士仲良くしようぜ!という若者に対して、共産党員なんて信じちゃだめだぜ、と諭す年長者、という戦前のアメリカの社会像を描いているように思います。
ところで、このホロテープにはモデルが当然ながらあります。
1980年代、アメリカで発売されたTeddy Ruxpin。このくまさんはテープを入れると、再生すると口が動くという、当時としては画期的なおもちゃとして登場します。
実際、三つのホロテープはすべて、熊の人形のそばに置かれています。
アメリカで発売されたTeddy Ruxpinでは、同じように、お話するとき「やあ、〇〇だよ」と挨拶してから話してくれたそうで、それを忠実に再現しているそうです。
銀河英雄伝説でも話されていて興味深かったのですが、政治がテレビや映画に関与するときは、民衆を思想的にどちらかに導きたいときが多い。戦争に向かわせたいときは、戦争を美化した映画を。講和したいときは、平和の美しさを描くテレビを。特定の宗教を攻撃するときは、カルト宗教の怖さを描く映画を。
子供たちに、共産党の怖さを植え付けるために、フォールアウトの世界ではかわいいクマさんの人形を活用したと思うと、なかなか興味深いフィールドではあります。
ホロテープおわり。違うホロテープを入れてください。